2006年09月11日

9.11

 9日の夜、レイト・ショウで映画を観た。いつものようにポップコーンを買い、いつものように通路側の席に陣取る。しかしこれはいつものような映画ではなかった。「ユナイテッド93」(UNITED 93)は観賞する映画ではなく、体験の共有である。映画館へ向かう時に心のどこかでドキドキするものがあり、それは「見たくない」という気持ちを抑圧していたのだろうか、よくあるパニック映画を観るかのごとく、心の準備を故意に怠ったまま見てしまい、抱えていたポップコーンに違和感を覚え、床に置いてしまった。

 2001年9月11日、NYのニューアーク空港を離陸したユナイテッド航空のボーイング機は、他の3機と同時にハイジャックされたが、乗客の有志は犯人に立ち向かい、操縦桿を確保するに至るが間に合わず、墜落してしまう。これは5年前にリアルタイムに報道された事実だが、その詳細を描いた「ドキュドラマ」である。監督のポール・グリーングラス(Paul Greengrass)は2002年の作品、「ブラディ・サンデー」で1972年の北アイルランドで起きた事件、「血の日曜日」の映像化をそのドキュドラマという手法で成功させた才人である。この「ユナイテッド93」ではその手法が極限まで駆使され、そのせいか手持ちカメラの「揺れ」に若干惑わされる。見ていて思う〜これはドキュメンタリーではなく、俳優が演じている再現映画なのだ。故に過度な手ぶれは製作の意図が見えすぎてしまうし、大画面で見るには三半規管への影響が大きい。これが最後まで続くかと思うと滅入ってしまう。しかしその懸念は前半の離陸までに過ぎなかった。何しろ飛行機が揺れているし、起きていること自体が眩暈そのものだったからだ。

 この映画には有名な俳優は出ていない。そればかりか、管制塔のチーフや軍人の幾人かは、5年前に実際その場にいた人物である。先にそれを知っていれば重みを覚悟できただろうが・・。ところで飛行機が乗っ取られて危機に陥り、無事帰還するというパニック映画は過去何度か観てきた。そのパニックの経過はこの「ユナイテッド93」も共通するのだが、最後には墜落して全員死亡してしまうところに9.11の重い事実があり、それを突きつけられる。映画の出来不出来を超えた事実だ。もしトム・クルーズやブルース・ウィリスが主役を演じていたら飛行機は墜落しない。事実と映画の決定的な違いである。隣の会社員らしき男性は見終わった後、嘔吐でもするかのようにうな垂れていた。他方でもう一本の映画がある。今月後半に公開される「ワールド・トレードセンター」はさらに重い事実を扱っているが、こちらは主役がニコラス・ケイジであることから分かるように、ハリウッド式の映画なのだろう。違う意味で「見たくはない」ものの、やはり見ざるを得ないと思う。

 何故見るのか?それは9.11を境に世界が変わったからであり、それがどういうことかを見極める必要があるからだ。そうした現在、米国では「9.11同時多発テロ=陰謀説」の声が湧き上がってきている。そのような現象の根っ子には、世界が悪い方向に進んでいることへの強い不安がある。9.11をきっかけに、ブッシュ政権によるアフガン進攻までは「止む終えない」というような理屈が通っていたが、イラク制圧から以降は理屈に「屁」が付きはじめた。この米国による「正義」の綻びは今や極限だろう。10日の報道によれば、米上院情報特別委員会が、イラクの旧フセイン政権と国際テロ組織アルカイダとの関係を否定した報告書を発表した。これを受けて自民党の武部幹事長も「イラク戦争の検証が必要」とコメントしている。
 
 8月に終戦61年を迎えた日本だが、世界では既に戦後どころか、戦争が戦争を生むような、戦中でもあり戦前でもあると言える状況だ。この果てしない争いから人類は脱却できるのだろうか。同時多発テロを思うこの時期、あらゆる事件の検証が取り沙汰されることは偶然ではない。自分の内も外も、気をつけて見守っていこうと思う。
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追記:訃報・犬丸りんさん

 昨日10日はWHOが提唱する「世界自殺防止デー」でしたが、そんな日に漫画家の犬丸りんさんが、自ら命を絶ちました。TVアニメでヒットした「おじゃる丸」の原案で有名ですが、デビュー時に週刊誌で連載された「なんでもツルカメ」がぼくは大好きで、そこに出てくる「りんちゃん」というおかしな少女が御本人だろうと想像していました。そのイメージと今回の訃報がどうしても重ならないんです。そのころ何かの雑誌に「りんちゃんのファンだ」と書いたら、犬丸さんから編集部を通してお手紙をいただきました。それなのに当時のぼくは忙しさにかまけ、返事を出しそびれたままになっていて、それが悔やまれます。犬丸さんの御冥福を祈ります。
posted by admin at 16:06 | quiet voice 2006