2006年09月26日

津軽シャイネス

 週末から三日間、津軽の林檎の里でレコーディングに参加してきた。

 伝統音楽振興財団の主催で、「つるとかめ」というCDシリーズがある。民謡界の大御所、津軽出身の澤田勝秋さんと、邦楽界異色の才人である木津茂理さんによる異色のセッションが「つるとかめ」という名で組まれ、今回その3枚目のCD制作になる。

 津軽平野の林檎園は今が盛りの収穫期だった。小さな町である鶴田にも林檎園が広がり、富士見湖にかかる総ヒバ作りの太鼓橋を渡れば、そこは彼岸かと思わせる景色だ。彼岸の里の宴会では「じょんがら」の三味線が奏でられ、「山うた」のこぶしが岩木山にこだまする。ここは天国だろうか、ぼくはお彼岸の日にそう感じていた。

 津軽には可愛いものがふたつある。林檎に人間だ。「林檎かわいや、かわいや林檎〜」という歌そのままに、赤い紅玉がこんなに可愛いものかと思わず頬ずりしたくなる。その林檎を大事に育てている人たちも可愛い筈だ。ここら辺では生まれたままの人が多いのか、せっかちでよく笑い、冬の寒さに負けない明るさを持ち合わせているようだった。しかもとてもシャイなのが可愛い。

 澤田さんもそういう一人だった。ぼくの参加に非常に緊張されていて、「どんなにコワイ人が来るのかと思ってた」と言う。どうやらぼくの「東京シャイネス」にホっとしてくれたようなのだ。ところが澤田さんは民謡界での大御所である。その歌と三味線は国宝級なのだ。

 この「つるとかめ」を思い立ったのは木津さんだった。彼女は民謡の行く末を真剣に考えている数少ない邦楽家である。かつてここ津軽の森田村という野外円形劇場で一緒に演奏して以来、伊勢の猿田彦神社や熊野の大斎原などで演奏した「モンゴロイド・ユニット」に参加してくれていた。その木津さんがライフワークとして見いだしたのが、澤田さんと組んで日本の伝統音楽を根っ子に戻って見直す、というコンセプトである。若手の才能と大御所の力量が組んだことで、異色のCDがつくられるようになった。

 その第三弾のセッションに呼ばれたのが浜口茂外也とぼくだった。門外漢の僕たちは民謡をポップ・ミュージックの耳で聞くような、音楽の放浪者だ。なにか出来るとすれば、民謡にグルグル巻かれた縄をほどくことだろうか。主に「リズム」という視点から解きほぐすという試みは、今回のセッションで成功したように思われる。ルールを尊重した上でギリギリまでリズムの根源に回帰してみた。隠岐の田植え歌はインドのパンジャブに数ミリ近づき、西馬内音頭は本来の日本の音霊がほんのり顔を顕した。

 これら「新解釈」が民謡界にどのように受け入れられるのか、振興財団は半ば不安なのだろうが、でき上がった音楽はドキドキするような音を孕む、民謡の枠を超えた地球の音楽だ。まずは世界中の人に聞いてもらうべきだろう。発売されるころ、またここで報告するとしよう。
posted by admin at 14:15 | quiet voice 2006