2006年10月10日

セニョール!

 10月8日に恵比寿ガーデンホールで行われたsonarsound tokyoは予想以上の盛況で、夜中の2時頃に出演したメイン・アクトのセニョール・ココナッツ(SEÑOR COCONUT and His Orchestra)がとても素晴らしいステージを見せてくれた。
 ATOM率いるラテン・ビッグバンドは、音楽の豊かさ、楽しさなど、大事なものを全部持っている希有なバンドだ。かつて話題になったクラフトワークのラテン版は面白いほど衝撃的だったが、最新作ではYMOのカヴァーをラテンに置き換えるというこれも画期的なCDで、ぼくもその出来栄えにかつてない喜びを感じた一人だ。それだけに愈々そのライブが観られるということはとても楽しみなことでもあった。とはいえ、CDでもヴォーカルで参加したぼくらが出ない訳にはいかない。こうしてぼくは「マッドメン」を歌い、高橋幸宏も「リンボ」の歌で参加したのだ。自分自身ステージに出たにも関わらず、ぼくは「観に行った」感が強い。自分の役が終わり即、二階席で彼らのステージを楽しんだのである。

 なによりもラテン・フレーバーが新鮮だった。それは最近のお洒落なカフェっぽいラテンではなく、1950〜60年代のヴァイタルなものに近いので、なおさらぼくの趣味に合う。ヴォーカリストはラテン系だが、サックス、トランペット、トロンボーン、ヴィブラフォン、マリンバ、パーカッション、ベースという編成はほぼ全員がドイツ人なので、コンティネンタルなテイストもある。その昔、ヨーロッパ人がタンゴやラテンに強い愛情を持って始めたコンティネンタル・スタイルだ。フェイクといえばそうだが、それでもラテンの愛に満ちあふれているのだから、本物なのだ。そしてヨーロッパ人ならではのポルカ的要素が見え隠れしているのも嬉しい。しかしそれらを包み込むものは、もちろんATOMにしか出来ないデジタル・ファンタジーだ。そのリズムの根っ子にはYMOなどと共通する感覚があり、ぼくのリズム脳を刺激し共振させるものがある。

 セニョール・ココナッツのマエストロでありブレインであるATOMもフランクフルト出身のドイツ人だが、彼は現在チリのサンチャゴに移住し、チリ美人と家庭を持つ身だ。余談だが、数年前に可愛らしい長女が誕生し、そのミドル・ネームは"Miharu"という。コシ・ミハルから取った名前だ。ATOMがフランクフルトにいたころ、NY在住のテツ・イノウエとぼくの3人で「HAT」というCDを作っていた。その頃まではATOMHEARTという個人ユニットで、現在のエレクトロニカの原形を大量にリリースしていた彼は、今やオリジンのマスターとして尊敬される身である。その後チリに移るという時、ATOMが「マンボをやるんだ」と言っていたのを覚えている。しかしタンゴの国であるチリにマンボはない。だからぼくはサンプリングのことだと思い込んでいた。

 ATOMの頭の中にあったのが、このセニョール・ココナッツというヴィジョンだったのだ。見終わってぼくは彼にお礼を述べた。得難い音楽の楽しさに感謝したのだ。「FUN」という音楽の要素は常にあってしかるべき基本だが、今どきどこにも見当たらないのは深刻なことだったのだ。ATOMが大人になり、こうして楽しませてくれるのは、ぼくにとってこの上ない楽しみである。
posted by admin at 17:32 | quiet voice 2006