2006年10月31日

飛ぶ

 「ほぼ日」のサイトで連載中の「夢日記」。その話しの続きである。当初はさしあたり20話を提出している現状だが、今週の木曜で17話目となる。で、そろそろ第二期の夢をさらに20話提出することになった。今までは、書きためていた中でも特に笑えるものを選んだので、この先、発表するには少し勇気が要るような、渾沌とした夢を出さざるを得ない。何故そう自己をさらけ出すのかといえば、ひとつは先達である横尾忠則先輩の「夢日記」がとても鮮烈であったことが挙げられる。その芸術家の正直な姿があればこそ、ぼくも夢日記を公開する気力が湧いたのである。もうひとつは人生もそろそろ終盤に近くなり、出すべきものは出し、捨てるべきものは捨てる時期だと思うからである。

 夢日記をつけ始めてかれこれ既に20年は経つ。現在公開中の夢は、テキストを「デジタル」化してからのものだけだが、それ以前の日記はノートに書き連ねている。しかもそのノートは倉庫やダンボールなど、あちこちに散逸したままだ。それをまとめるのはかなり骨が折れるので、サイトに載せる気力はない。おそらく本にでもまとまめることになったら、その中に全部入れてしまおうと思っている。

 記述する以前から夢というものは鮮烈だった。というよりも、鮮烈な夢だから覚えていたのだ。子供の頃は飛んだり落ちたりする夢が楽しかった。でも、生活そのものの中に「飛んだり落ちたり」する感覚が活き活きとあったことも確かだ。

 子供の頃はよく高い塀や石垣から飛び降りて遊んだものだ。傘を広げて飛び降りるという実験に並々ならぬ意欲を持っていたが、いざやってみると何も面白くなかった。中学になって体育館の天井裏へ友人と忍び込み、今までにないほど高い所から飛び降りる、というイニシエーションを実行して、足首を捻挫したこともあった。

 「飛ぶ」といえば忍者だ。ぼくは忍者に憧れた。お祭りの夜店などで「忍者になる方法」という高価な巻物を売っていた。ある時、ためた小遣いでそれを無理して買い、どんなに熟読してもさっぱり理解できない、アホらしい内容にガックリした。水の上を歩く方法とか…。その一方、始まったばかりのTV放送では、年配の役者(「小笠原昭二郎」という)が若武者姿の「猿飛佐助」を演じていた。もちろん生放送なので、スタジオのセットは粗末なのだが、術をやる時だけフィルムだった。逆回転、コマ落としなどで特殊効果を表現していたが、そんなことでさえ面白いものだった。後日、その役者が普段の姿でTVに登場していたのを見たが、カツラをとればツル禿のお年寄だったので、ぼくは何か裏切られた気分だった。

 山川惣治の絵物語、「少年ケニア」は小学校の教室にライブラリーとして保管されていたので、よく読んだシリーズである。日本人の男の子〜ワタル少年がアフリカで両親とはぐれ、マサイ族の賢者に拾われて鍛えられていく物語だ。敵は悪い白人の銃だったりするが、少年はマサイ仕込みの跳躍力で数メートルも横っ飛びする。だからタマは当たらないのだ。「高飛びの術」の訓練は毎日「麻」の低木をジャンプするというものだった。これは後に白土三平の漫画で、忍者の訓練法だと知った。麻の木は成長が早いので、日々高く飛ぶよう訓練されるという。

 子供の頃は庭に植えてあったツツジの木を毎日飛び越えていた。東京に麻なんてものが生えてなかったので仕方ない。ツツジは日々成長することもなかったが、それでも充実した訓練だった。昭和30年代の白金あたりにはまだ原っぱがあり、よくそこでも駆け回っていた。高く伸びた雑草を飛び越えつつ、まるで鹿のようにピョ〜ンと跳ねていく。成長期である自分の身体はやけに脚だけが発達し、予想以上に高く跳べることが自慢だった。脚のはるか下方に地面や雑草が見え、飛んでる自分はスローモーションだが猛スピードに思えた。

 この自慢の走法を公的に試す機会がやってきた。小学校の体力測定である。まずぼくは立ち幅跳びで超人的な記録を樹立した。何故か肺活量もクラスで最高だった。ワタル少年に匹敵してもおかしくない。そしていよいよ本命の50m単独走である。ぼくは自慢の鹿飛びで悠々と自走を始めた。地面がはるか下方に見え、なんと身体が軽やかなのかと感じながら…。ゴールでタイムを測っていた担任の教師が怒鳴った。「オイふざけないでマジメにやれよ、ホソノ!」と意外なことを言う。その奇妙な走り方は一体何だ?ということらしい。ぼくはショックだった。誰よりも早いと思っていたのに、見た目にはただのスローモーションに過ぎなかったのだ。

 この事件以来、ぼくはフザケタ生徒へと自らを変貌させて生活を営むことになる。憧れの英雄であった猿飛佐助も、「杉浦茂」の同名漫画の方に共感し、友だちとは「レレレ、トトト、サイザンスカ?」などと杉浦言葉になってしまった。

 こうしてぼくが見る夢もマンガのようになり、現在にいたる。
posted by admin at 02:55 | quiet voice 2006