2002年05月14日

2002.5.14

Note
 この連休はスタジオにこもり高橋幸宏とスケッチ・ショウの歌入れをやっていたが、その合間を縫ってラジオ「デイジー・ホリデー」のオープニングを録ったり、外に顔を出したりして忙しかった。ウーム、ものすごく忙しいね。このコラムも僕には珍しく、頑張って毎月初めに更新することにしたしね。でも春先に較べれば体調は回復している。ただしこの季節は動物も弱るらしい。冬眠したまま永遠に起きないことも多いそうだ。考えてみれば、そういう臨終は自然の慈悲に包まれて眠るという理想的なサイクルに即し、羨ましいかぎりだ。かと思うと人間は生きるのも死ぬのも楽じゃないね。寝るのが一番。子供の頃母が寝る前によく言ってた。「寝るほど楽はなかりけり・・」
 で、人様の前に顔を出したイヴェントについて補足しておこうと思う。

CODE
 坂本龍一君に「遊びに来てよ」と呼ばれ、DJパーティーなら気楽だと思い、先週参加しに行ってきた。前の日の夜中に元スーパースター、現黒幕の東君とCDを選び、パワー・ブックに流し込んだあと、なぜかニュー・トラックを作りたくなり、いっきにリズムをプログラムして新曲を録音してしまった。さらに現在進行形のスケッチ・ショウのラフ・トラック〜「教授」から送られたコード・ワークを使用したもの〜までエディットをし始めてしまい、「これは大サービスだ」と興奮したものだ。でも多分聞いた人には分からないだろう。だってまだ誰も知らないトラックだし、他のmumやGELと一緒に流すので紛れてしまう。そういう音につくってあるのだ。まあこういった受ける側が気付かないままのサービスというのも良くあるし、素知らぬ顔でやってきたことでもある。それに気楽なパーティーだしね・・・と思っていたのは僕の無知だった。

 何故あのDJの席に「ハリセン」が置いてあったのか? それはスタッフの東+吉田らが「まんいちの時のために」用意したのだ。「まんいちの時」ってどういう時だろう?一万回に一回あるかないかのピンチ、という意味が万一というものだが、そんなピンチはあの時に来たっけ?僕が照れ隠しにふざけるのが好きなのを知っている、というだけだ。そこにハリセンがあれば僕はどうしたって使いたくなるに決まってる。だから使ったまでだ。しかもこの時のDJというのはパワーブックにある程度仕込んであったのでヒマだった。仕込んでなくとも音楽をかけるだけなんだからもともとヒマなんだ。DJに怒られるかもしれないが、音楽というのはお皿をかけるより作る方が大変だよ。逆に言えばプレイすることの楽しさはDJの他にはない。だから忙しいふりをするのも飽きて、格好をつけるのも面倒な僕は、隣にいる東君に耳打ちし、「僕をハリセンでたたいてよ」とお願いしたのだ。で、DJの場合、皆踊ってるのが普通でしょ?ところが僕の番になるとブースの前に皆集まってきちゃう。こんなやりにくい状況が他にある? だってお皿をかけてるだけなんだよ。その手元を見て面白いのかねえ。顔つきも見られてるわけだ。君と代わりたいよまったく。君ならどうする?やっぱりハリセンで誰かをたたくのかな。いやいやそれは十年早い。ギャグと悪ふざけは違うんだ。ぼくのは言っておくが「ギャグ」だよ。でもそれを見ていた女の子が「変なの〜」ってつぶやいたのが聞こえたんだ。こういうくだらないことをやって来て、初めて視聴者の素直な反応を聞いた喜びがあった。嬉しかったぼくは思わずその女の子に「・・変でしょ?」と返答してしまった。こうしてハリセンのおかげで喜びに溢れた変なDJを終えた後、僕はある重要なことにに気付いてしまった。それはこのイヴェントがアート・フェスティバルだったということだ。現代音楽のアプローチに近い音響が最期まで会場を圧倒していたし、「教授」もラップトップで毅然とした態度の音を即興で構築していた。ああ、僕のハリセン・ショウは一体なんだったんだ・・。でもぼくは落ち込んだり反省も後悔もせず、ちょっと楽しかったなと思いながら雨の中を帰路についたのであった。

Haruomi Hosono playing list
for "please"(code/ova) party, 4/25 at TN probe
1."daisyworld mix(voice: Dr.James Lovelock)" Haruomi Hosono
2."reach suite" GEL
3."a little asphalt here and there" to rococo rot
4."smell memory" mum
5."documenta/V.A." Phonem
6."New track(rough)" Sketch Show w./ Ryuichi Sakamoto
7."Eple" R?ksopp
8."New track" Haruomi Hosono
9."Rubaiyato" Cold Cut(Haruomi Hosono Remix)

World Standard
 4月29日は新宿のタワー・レコードで鈴木惣一朗率いるワルスタのストア・イヴェントにゲスト出演だった。ヴァン・ダイク・パークスや僕のロータス・ラヴなど、3曲の演奏を聴いて、ますます大所帯はいい音を出すバンドになってきたと思った。丁度いい塩梅。この「丁度いい」というのが実は得難いことなのだ。現代人は自然をコントロールして「都合のいい」世の中を作ってきたが、そのおかげで丁度いいという加減を失ってしまった。「丁度いい」ことは人為的に作ることができない。向こうからやって来るだけだ。自然の恩恵である。カスタネダの本では「地球の応援」を得ると表現している。準備をし自分を整えておけばやって来る。だが「おっと、丁度いいところに来たねえ!」という会話はもう現代では聞かれない。

 で、鈴木君のことだ。あの時ぼくはトークの席で「昨日鈴木君の夢を見た」と言ったが本当だった。喫茶店で相変わらず鈴木君がCDを探しているという話をしたのだが、その行く着く先にあるイメージが僕に見えたのだ。「ロマンス主義が復活するねえ・・」
と呟いたのはぼくだったが、会場では鈴木君が言ったことにしてしまった。これもサービス。ロマンス主義なんてやけに陳腐な言葉だが、イメージそのものは深い。夢はそのような言葉にできないイメージに満ちあふれているので、うまく説明できない。この話をしたら鈴木君は今の自分がロマンティックな気分を大事にしている、と言ってくれたので、この半端な夢の話もいいオチを得て救われた。

 鈴木君を見ていてつくづく僕に似ていると思っていた。顔のことじゃないよ。彼の顔を見るとジョン・キューザックを思い出すけどね。音楽への態度が似ているのだ。しかも僕がやれなかったことをやっている。かつて弟子に追い抜かれた師匠は数多い。あんな大人数の人を気持ち良く演奏に導くのは才能のひとつだ。彼が「可愛い動物園の園長」なら、僕がやってきた仲間は象やサイだ。でも僕はなぜかタヌキ。丁度いい線を是非キープして欲しい。
posted by admin at 00:05 | quiet voice ~2005