2002年02月21日

Boogie Woogie の秘密

ブギウギ特集をやった。あらためて今ある音楽の骨格が早々に芽生えていたことに気づかされた。1938年にシカゴでタクシーのドライバーをしていた Mead Lux Lewis、Albert Ammons、そしてパーティー仲間のPete Johnson のブギウギ・ピアノ・三羽ガラスがNYCのカーネギー・ホールに招かれ、それまで限られた黒人しか楽しんでいなかったブギウギを、大勢の WASPの前で披露したことが発火点だったという。もしそんなことがなくたって、どっちみちブギウギはR&BやJAZZに連なる道を歩んでいただろうが、ロカビリーが生まれたかはわからない。それには白人がかかわっているからだ。ホールでの演奏が大評判で、それ以来ブギウギに熱中したのは主に白人のビッグバンドだった。ブギウギのビートは既にロックの基本的な8ビートを含んでいあたが、そのリズムは当時、ブギウギ固有の特殊なものであり、主流であったSwingの4ビートとは一線を画すものだった。その奇妙でせわしないが、妙に躍動感をそそるビートが、血気盛んな若者を捕らえたのも当然だ。田舎のカントリー・ボーイまでブギをやりだすようになったのだ。それがHillbilly Boogieと言われるようになり、Rock and Roll=揺れて回る=という言葉が流行ったころからRock-A Billyになったんだろうと思う。そのような大流行の末、エルビス・プレスリーという天才歌手が現れ、ラジオの人気DJであったAlan FreedがRock'n Rollと叫んで以来、大きなポップスの道が開いたのである。1951年のことだ。

アメリカの白人達は常に黒人達の音楽に注目してきた。異文化だからこそのエキゾチズムに対する、西洋人特有の好奇心がそうさせたのかわからないが、そのせいで黒人音楽は差別的な用語のレース・ミュージックから、今やビッグ・ビジネスの中心にまで発展してきたのだ。古くはAtlantic RecordsのAhmet Ertegun、その盟友のJerry Wexlerの偉業を讚えよう。しかしアーティガンはトルコ人、R&Bの名門Chess Recordsの兄弟はチェコの移民だった。黒人音楽の成り立ちは複雑だ。アフリカのリズムはもちろんだが、黒人達が不幸なかたちであれ、接触した人種全ての影響が交じり合っている。ブギウギの元であったラグタイムはフランスやスペインの舞踊音楽をもとにしている。しかもバッハがその形を決めたピアノという西洋音楽の中心にある楽器を使っている。ニューオリンズの娼館にはピアノが置いてあったのだ。

こうして面白い音楽はあらゆる文化の波がせめぎ合う境界に生まれた。もちろん白人の介入ということもそれに含まれる。境界には生命が生まれる。陸と海の境界で最初の生命が育まれた。境界は物事が遊ぶ場なのだ。ぼくはこれを生命の基本的な快楽と思っている。楽しいところに創造がある。海に行くとぼくは浜と海の境界で心から安らぎ、そしてまた楽しい。その楽しい気分を渚感覚とでも言いたい。イルカは海と空の間で戯れる。遊びとは動くことだ。エネルギーの交換ということである。境界は異と異が出会うダイナミックな位相の場なのだ。どの国の歴史にもそういう場は生まれ、生まれては消滅してきた。

現在では世界が西洋化をはたし終え、極東といわれた日本でさえアメリカ化をなし終えた。それはとりもなおさず平均化してきたということであり、ダイナミックな遊び、動き、エネルギーの交換は起こりにくくなってしまった。もしあるとしてもそれは否定的で観念的なものに成り果て、意図的に抹消されてゆく。今起こっている戦争はそれである。なんとネガティヴなエネルギーだろうか。もったいないが仕方がない。だって面白いことを作る遊びがないのだから。皆平均化した心や言葉や声で、同じ顔をした大観衆の前で歌うことが良いことだと信じている。当初は誰にも聞かれなかったブギウギのように、そんな音楽が何処かでひそかに生まれているのだろうか?

ブギウギの中には隠された創造性がある。現代の人間はほとんど忘れている異と異のせめぎあうビートのことだ。4ビートと8ビートがぶつかり合う境界は、絶妙なバランスで或るポイントの宙づりリズムが生まれる。それは強いて言うと一拍子である。ビートがひとつひとつ自立していて、アフター・ビートと言われるような主従関係が排除されている。そのステップの連続が宙吊りなのだという感覚を言葉で伝えることは不可能だ。自分の中に異質を取り込み、あるいは育み、それらを楽しむことだと言うほかはない。ロックと一言で言うが、この醍醐味がロックの魂なのだ。こんなことに興味を持って音楽を聞いてもらえば、より楽しい地平が開けるだろう。いや楽しいどころではない。その魔力にとりつかれるだろう。でもそんなことは極めて稀だ。だって本家アメリカの音楽も、今やそんなことに見向きもせず、単純なビートで充分楽しそうにやっているのだから。ケッ。

PS:蛇足
今読んでいる本を紹介したい。「漢字と日本人」。こんな地味な本が16万部も売れている。読むと戦慄が走るほど面白い。16万部といっても日本の人口の0.1%だから、ほとんどの人が読んでない、と言った方が正しい。でもこの世を統計や確率で判断することは間違いだ。ファシズムが好む方法なのだ。16万人もこの本を読めば世の中は捨てたもんじゃない。それほどこの本は日本人の心のありかを明るみに出し、我々の生きているこの時代の日本が、いかに危ういかを知らせてくれる。言語こそその民族の魂だ。『え、いらっシャーせ〜エ』という抑揚が気にならない日本人のことも良く分かる。必読の書。
2002.2.21 Haruomi Hosono



Boogie School On The Air Part 1 / Originators

01 Honky Tonk Train Blues/Meade Lux Lewis/1937
02 Pinetop's Boogie Woogie/Clarence "Pinetop" Smith/1928
03 Pine Top's Boogie Woogie/Cleo Brown/1935
04 In Pinetop's Footsteps/Teddy Powell & His Orch./1941
05 Boogie Woogie/Tommy Dorsey and His Orch./1938
06 Bass Gone Crazy/Albert Ammons/1939
07 Woo Woo/Harry James & His Boogie Woogie Trio/1939
08 Rock It Boogie/Pete Johnson/1944
09 Boo Woo/Harry James & His Boogie Woogie Trio/1939
10 Cow Cow Boogie/Ella Mae Morse/1942
11 Cow Cow Boogie/Cow Cow Davenport/1928
12 Cannon Ball/Nola Lee King with the Pete Brown Sextet/1942
13 In The Night/Professor Longhair & his Blues scholars/1953
14 Hamp's Boogie Woogie/Lionel Hampton & his Orch./1944
15 Ain't That Just Like A Woman/Louis Jordan/1946
16 Roll Over Beethoven/Chuck Berry/1959


Boogie School On The Air Part 2 / Fun It Boogie

01 Honky Tonk Train Blues/Bob Crosby & His Orchestra/1938
02 Tutti Frutti/Gene Krupa & his Orch/1938
03 Beat Me Daddy Eight To The Bar/Woody Herman & His Orch./1940
04 Boogie Woogie On St.Louis Blues/Earl Hines & His Orch./1940
05 Head Rag Hop/Romeo Nelson/1929
06 Kaycee Feeling/Pete Johnson/1944
07 We're Gonna Rock/Cecil Gant/1950
08 Down The Road A Piece/Merrill Moore/1954
09 Down The Road A Piece/The Will Bradley Trio/1940
10 Boggs Boogie/Spade Cooley & His Band/1947
11 Daddy Daddy/Ruth Brown/1952
12 Hey Little Girl/Roland Byrd (Professor Longhair)/1949
13 Lillie Mae/Smiley Lewis/1952
14 Tutti Frutti/Little Richard/1955
15 A Big Hunk Of Love/Elvis Presley/1958
16 You Never Can Tell/Chuck Berry/1958


Boogie School On The Air Part 3 / World Wide Era

01 Canteen Honky Tonk Boogie/Pat Flowers Trio/1944
02 Pinetop's Boogie Woogie/Clarence "Pinetop" Smith/1928
03 Pine Top's Boogie Woogie/Cleo Brown/1935
04 In Pinetop's Footsteps/Teddy Powell & His Orch./1941
05 Boogie Woogie/Tommy Dorsey and His Orch./1938
06 Bass Gone Crazy/Albert Ammons/1939
07 Woo Woo/Harry James & His Boogie Woogie Trio/1939
08 Rock It Boogie/Pete Johnson/1944
09 Boo Woo/Harry James & His Boogie Woogie Trio/1939
10 Cow Cow Boogie/Ella Mae Morse/1942
11 Cow Cow Boogie/Cow Cow Davenport/1928
12 Cannon Ball/Nola Lee King with the Pete Brown Sextet/1942
13 In The Night/Professor Longhair & his Blues scholars/1953
14 Hamp's Boogie Woogie/Lionel Hampton & his Orch./1944
15 Ain't That Just Like A Woman/Louis Jordan/1946
16 Roll Over Beethoven/Chuck Berry/1959
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